コンセプトの定義

コンセプト (concept) は、C++20で導入された言語機能で、テンプレート引数に対して型の要件を定義し、コンパイル時に型チェックを可能にする仕組みです。

コンセプトの主な目的

コンセプトには、以下の3つの主要な目的があります：

1. コンパイル時の型検査を実現する
2. ジェネリックコードの意図を明確に表現する
3. より分かりやすいエラーメッセージを生成する

コンセプトの利点

コンセプトを使用することで、以下のような利点が得られます：

型安全性の向上

コンパイル時に型の要件を厳密に検査できるため、実行時エラーを削減

コードの表現力改善

型の要件を明示的に定義することで、コードの意図をより明確に表現

エラー検出の改善

より具体的で理解しやすいコンパイルエラーメッセージの生成

再利用性の向上

抽象化された型要件によるコードの再利用性の改善

拡張性の向上

柔軟な型要件の定義と組み合わせ

比較演算子コンセプト

EqualityComparable

== と != 演算子をサポート

LessThanComparable

< 演算子をサポート

コンテナコンセプト

Sequence

順序付きコンテナの要件を満たす型

AssociativeContainer

キーと値のマッピングを提供するコンテナ

RandomAccessRange

ランダムアクセス可能な範囲をサポート

イテレータコンセプト

InputIterator

読み取り専用の単方向イテレータ

OutputIterator

書き込み専用のイテレータ

BidirectionalIterator

双方向移動可能なイテレータ

RandomAccessIterator

ランダムアクセス可能なイテレータ

その他の汎用コンセプト

Callable

関数呼び出し可能な型

Predicate

真偽値を返す関数オブジェクト

Range

範囲を表現可能な型

Regular

コピー可能で等値比較が可能な型

基本的な構文

コンセプトは次の構文で定義されます：

template<typename T>
concept ConceptName = /* 制約条件 */;

コンセプトの制約条件の例

型トレイト

std::is_integral<T>

サイズ制約

sizeof(T) <= 16

演算子要件

a == b, a < b

メンバ関数要件

a.size()

コンパウンドコンセプト

複数のコンセプトを組み合わせて新しいコンセプトを作成できます：

template<typename T>
concept Hashable = requires(T a) {
    { std::hash<T>{}(a) } -> std::convertible_to<std::size_t>;
};

template<typename T>
concept ComplexConcept = EqualityComparable<T> && Hashable<T>;

テンプレート宣言

template<EqualityComparable T>
bool are_equal(const T& a, const T& b) {
    return a == b;
}

requires式

template<typename T>
requires std::integral<T>
T add(T a, T b) {
    return a + b;
}

コンセプトベースのオーバーロード

template<typename T>
requires std::integral<T>
void print_info(const T& value) {
    std::cout << "Integral value: " << value << '\n';
}

template<typename T>
requires std::floating_point<T>
void print_info(const T& value) {
    std::cout << "Floating-point value: " << value << '\n';
}